歌いたかったんです。
音感はあると思うんです。
でも、音程が取れないんです。
持ち運べる楽器を、持ってみたかったんです。
立って弾く楽器を、弾いてみたかったんです。
ピアノの、対極に、ある。
チェロをやるつもりだったんです。数年間くらい。
でも、置き場所ないんです。
実は、身近な存在だったんです。
高校の音楽の授業で、徳永先生のお弟子さんと合わせた、プレリュードとアレグロ。
いとこの家にある楽器。
叔母が習っているのを見ていた、母。
どうかしそうなときに、曲がりそうなときに、何をしたらいいのか。
水泳?旅行?ぼーっとする?
何かを変えないと。何かをしないと。何?
いろいろいろいろ考えて、根底にあるものは、何か。
…音楽。やっぱりこれが自分の底に存在する。
真っ直ぐに戻れそうな気がするんです。
真っ直ぐ立つことによって。フランクの真っ直ぐな曲を弾くことによって。
歌えそうな気がするんです。
持続音によって。
…で、勢いで始めてしまったものの、
死ぬまでに歌えるようになるのか?
死ぬまで続けられるのか?
無謀な夢。
フランクのバイオリンソナタ。
クライスラーのプレリュードとアレグロ。
ラフマニノフのボーカリーズ。
バッハのエール。
ピアノと。弦楽四重奏で。オケで。
夢ばかり広がります。
楽器の形と色を眺めているだけで、200年前に戻れそうな、そんな感じが、
好き。そして、60歳でも続けていそうな、予感がします。